Beyron Audio創設者兼CEO・Irfan Gusaniインタビュー
はじめに
Beyron Audioはフィンランドの新しい会社で、Altronという素晴らしいサウンドを持つプラグイン・シンセサイザーをリリースしました。
Altronは、非常にユニークなサンプル・ベースの音源であるため、Beyron Audioについて耳にする機会は、今後どんどん多くなっていくことでしょう。この記事を読んでいる方は、ぜひこの新しいシンセの素晴らしさを、ご自身でチェックしてみてください。
Beyron Audioは、使いやすく刺激的なサウンド構築への取り組みに加え、Altronに組み込まれているSmart Sequencerという素晴らしい機能にとても力を入れています。
Altronを使ってみれば、そのサウンドと、Smart Sequencerによって得られるインスピレーションを、きっと気に入ってもらえるでしょう。
Irfan Gusaniインタビュー
Beyron Audioの創設者兼CEOであるIrfan Gusaniに、彼が開発者になるまでの経緯について、話を伺いました。
最初にあなたのことについて少し聞かせてください。
Irfan Gusani(以下、IG):私はクロアチア生まれのフィンランド育ちです。父がフィンランドで仕事の機会を見つけた時に、私たちも一緒に連れてきてくれました。当初の予定では一時的な滞在だったのですが、学校生活を始めて友達もできましたので、私はクロアチアに帰りたくないと強く思い、ありがたいことに父はそれに同意してくれて、ここに永住することになったんです。
クロアチアで暮らしていた時から、父はバンドをやっていました。私たちがフィンランドの学校にいる時も、父が人気のバンドで演奏していたため、私も音楽に夢中になりました。私は物心がついた時から音楽に囲まれていて、6歳のときに初めて人前で父と一緒に歌い、約2,000人の観客を前に演奏したんです。
その時の感動が忘れられず、自分でもシンガーやプロデューサーとして音楽の道に進みたいと思うようになりました。その夢に向かって、音楽の学士号を取得するための学校に通いました。その後、音楽を作ることに没頭し、10代前半からコンピューターを使った作曲やプロデュースを始めました。Altronは、そこから始まった長い道のりの集大成になっていると思います。
この写真は、フィンランドのヴァーサという街でギグを終えた時のものです。1000人の聴衆が私たちのショーを楽しんでくれました。父が弟を抱いていて、左が私、右が兄です。
あなたがコードを書けるようになったバックグラウンドについてはどうでしょうか?コンピュータープログラミングを勉強したことはありましたか?
IG:正直なところ、コーディングの勉強はしていません。Native Instrumentsのコーディング言語であるKSPを教えている学校がないので、フォーラムやYouTubeから学びました。勉強したのは、音楽理論、技術、制作や歴史です。4年ですべての課程を終え、気がつくと自分のオリジナルなシンセをどうやって作るかを考えていました。それはクレイジーなことでしたが、私は憑りつかれたように、すぐにインターネットのコーディングを学ぶフォーラムに参加しました。
音楽のバックグラウンドがあり、音楽を作ることに強い情熱を持っていたあなたが、どのようにしてAltronを作るようになったのか、その経緯について詳しく教えてください。
IG:Altronの開発を始める前は、色々な種類の著名なプラグインシンセを使用して、音楽制作の仕事をしていました。買った時はとてもワクワクしていましたが、使っているうちにだんだんガッカリしてくるんです。こんなに沢山の音色があるのに、どこかしっくりきませんでした。その時、Altronについての初期の構想が形になり始めました。「もし自分で製品を作ったらどうなるだろう?」というアイデアが次々と浮かんできて、既存の製品に欠けていた要素を全て含むようにAltronを設計し始めました。でも、完成には何年かかかるとは思いましたが、こんなに長くなるとは予想できませんでした(笑)。
それらの既存のシンセライブラリーの音色は実際にどれくらい使用したんですか?
IG:考えてみれば、トータルで100音色も鳴らしていないかも知れませんね。拡張ライブラリーなどで素晴らしいサウンドを追加できるものもありましたが、私とっては少し期待外れに感じてしまいました。重要なことは、そのシンセサイザーで自分の思い通りの音色を作ることができなかったことです。せっかくクールなプリセットがあっても、それ以上のエディットを進めることができず、なんだかプロセスが止まったような気分でした。また、ギター、サックス、その他の生楽器のライブラリーにはリアルさが欠けていました。私はその制限に非常にがっかりして、もっと自分の思い通りにエディットができるシンセが欲しくなったんです。
言ってみれば、味だけでなく、量よりも質だということでしょうか?
IG:そうです。パッチテーブル全体を眺めている時に、「自分でサウンドを作成する時は、その一つ一つが私の感性に刺激を与え、音色を聞いた瞬間にひらめきを得られるような音であって欲しい」と思ったことを覚えています。 各音色それぞれが魂とパワーを持っているべきだと。
あなたのサウンドに対する情熱はどこから来ているのでしょうか、また、いつから始まったのでしょうか?
IG:私は自分が良くないと思ったものは人に勧めない主義です。それは私の家族からのものだと思いますが、自分が作ったものは、自分が完全に満足できるクオリティでなければ提供しません。私はハードウェア・シンセサイザーが本当に好きで、それをバーチャルな世界で再現したいと思っていました。当初、Altronは高品質なアナログサウンドのサンプルとそのライブラリーにすぎませんでしたが、ふとAltronをアレンジャーにするというアイデアが浮かび、コーディングを開始して、Altronを一般的な「バーチャル・インストゥルメント」とは一線を画すSmart Sequencer機能を追加しました。
Altronを一人で制作することについてはいかがでしたか?一人で設計や開発をするは大変な仕事ですよね?
IG:その時の私は、強い決意と、自分が望んでいるものについての明確なビジョンを持っていました。自分の頭の中で鳴っているサウンドを、自分が作ったシンセサイザーを通して、スタジオのスピーカーで鳴らせるようにと、常に自分自身を奮い立たせました。とても孤独な作業でしたが、自分の使命を全うするという感覚でした。
多くの場合、シンセサイザーは共同作業によって開発されます。ミュージシャンとプログラマーが一緒になって素晴らしいシンセサイザーを作るケースが多いですが、私の場合には違いました。私は、レコード会社であるソニーとユニバーサルフィンランドでプロデューサーとして働いた経験があります。そのような背景から、自分のような他のプロデューサーにとって特別で完全に役立つものを作ることができると信じていました。自分が何を望んでいるか、製品に何を期待しているかはすでに分かっていましたので、Altronが単に音色を再生するだけでなく、それ以上の機能を持っていることを人々に知ってもらいたいと思いました。演奏したり、音楽を作ったり、音を聴いたりする時に、インスピレーションがどんどん湧いてくるような製品を作りたかったのです。。Altronで目標の多くを達成したと思っています。
どのようにサウンドを収録しましたか?
IG:私の学校で録音しました。教授にAltronについて説明し、どのように録音したらよいかについて尋ねたところ。彼はすぐに適切な録音技術についてアドバイスし、学校のあらゆる高価な機材の使用と録音を許可してくれました。貴重でクールなマイクをたくさん使ってみたり、とても楽しい経験でした。彼が助けてくれたことは大変ラッキーでした。
Altronの開発を始めたのは何歳の頃でしたか?
IG:21歳の時です(笑)。
なんと!とても若い頃だったのですね。その年頃だと他の人がビデオゲームをしたり、クラブに行ったり、友達とパーティーをしたりすることが楽しい頃ですよね?
IG:ハハ!(笑) 私はとにかくAltron開発への情熱に溢れていて、今もそのままなんですよ(笑)。友達はみんなパーティーやデートをしていましたが、私は家でAltronの開発に没頭していました。一人でシンセサイザーのコーディングと設計を行い、寝食を忘れて私とコンピューターだけで過ごしていました。やがて、この製品をNative Instrumentsのコレクションに加えてもらうという、6歳の頃からの夢が実現しました。そのメッセージを受け取った時の気持ちは忘れられません。彼らが私をサポートしてAltronと一緒に仕事をしたいと言ってくれたことはとても光栄でした。
その次の段階はどのように進みましたか?製品は簡単に完成したのでしょうか?
IG:ええと、実際にはそうではなく、まず私はテストを受けました。最初にAltronを提出した際、Native Instrumentsからアーキテクチャーの構造上の欠陥をいくつか指摘されました。2週間以内に調整を行って再提出しましたが、残念ながら、修正によってまた新しい問題が発生しました。また調整して送ると、また新たなの問題が発生する。この繰り返しで、最終的には製品全体を一から作り直すことになり、一時は諦めようとまで思いましたが、「ここまで来たのだから、もうやめられないぞ」と自分に言い聞かせて開発を続け、1年の間に7~8回の修正を行いました。その過程で多くのことを学び、多くのことを試されましたが、これだけ時間をかけて作ったアルトロンを諦めるわけにはいきませんでした。結果として、Altronが完成したと確信してから、正式に世に出せるようになるまでには、ほぼ1年かかりました。
今でも、私たちは製品をより良くするために、絶えず開発を続けています。
結果として、開発された製品に満足していますか?
IG:私は、自分が納得できない製品は決してリリースしない主義ですから、世界でこの製品を使ってもらう前に、何よりも私がこの製品に満足していなければなりません。ええ、結果には満足しています。今日、私は自分の音楽作品を作るためにAltronだけを使用しており、Spotifyではいくつかの作品を聞くことができます。
わかりました。では、Smart Sequencerについて少し教えてください。アイデアはどこからきているのでしょうか?
IG:Smart Sequencerは、楽曲制作などの創作活動をサポートするツールとして作成されました。1つの音符を保持するだけで曲全体のイメージを分析して最適な選択をしてくれます。たとえば、進行の中でメジャーコードとマイナーコードが切り替えた場合に、全体のアレンジに基づいて、より演奏に適したコードを自動で選んでくれます。現在は伝統的な音楽の構成をベースにしていて、その結果はとても素晴らしいもので、カスタマイズ可能なインターフェースで、たくさんのエキサイティングなメロディーを自由に組み合わせて作成することができます。Altronは、メロディーとサウンドデザインにおいて、あなたのクリエイティビティの障害を取り払い、創作活動へのインスピレーションを得るための最高のツールなのです。
Q&Tエンジンについて教えてください。
IG:Q&Tエンジンとは、EQ、コンプレッサー、リミッターの組合せで、すべてのサウンドをが出力段階で業界標準のサウンドとなるよう調整します。覚えておくべきことは、シンセの各サウンドに対して異なる反応をするということです。どのサウンドを選択し、どのサウンドを組み合わせるかに関係なく、一定レベルの音質を提供します。エンジンはいつでも調整したりオフにしたりできますので、サウンドクリエイションに加えるスパイスの一つとして捉えてください。
あなたは今、シンセサイザー業界で沢山のビッグネームと共に大舞台に立っています。彼らと競争することをどのように感じますか?
IG:ええと、彼らがいなかったら、私は自分のいる場所にたどり着きませんでしたから、幸せな気分です。私はそれらの会社が本当に好きで、尊敬しています。いつか彼らとコラボして、素晴らしいサウンドを作っていきたいです。私は怖いと思っていませんし、彼らをライバルとはみていません。少なくとも今のところ、私たちのアプローチは他社のアプローチとは異なっていますので、競争にはならないと思います。どちらかといえば、私たちが競争しているのはAltronであり、自分自身がライバルだと思っています。
他にもやりたいことがあると思いますが、Beyron Audioは次に何を考えていますか?
IG:はい、私はいつもそれを考えています。私はライブラリー拡張のためにたくさんのサンプルパックを作り始めていますが、今はそれは置いておいて、Altronの次期バージョンに集中することにしています。例えば、シーケンサーをさらに拡張して、次のレベルに引き上げるといったことです。暫定的にこのプロセスは進行中で、近日中にAltronのいくつかの小さな拡張と更新を行なうつもりです。
これらの経験からあなたが学んだことはどのようなことでしょうか?
IG:私は3つのことを学びました。まず第一は、完璧主義者であろうとしない、ということです。私はそれを学ぶのに何年もの間苦労しましたが、最近はだいぶ慣れてきました。 2つ目は、自分の意見を形にするためにできるだけ多くの人の意見を聞く、ということです。自分が進むべき方向を見極めるため、とても重要なことでした。最後に、マメにセーブをすることです(笑)。決まった時間にこまめセーブする必要性を何度も学びました。ある時、私は1ページの半分をコーディングしていて、すべてがうまくいき、クールでした。そこに誰かが電話をかけてきて、誤って保存しないでコーディングウィンドウを閉じてしまいました。すべてがやり直しになり、必死で作業しました。今はコードをブロック単位で記述しているので、入力が簡単になり、開発もやり易くなっています。
わかりました。忙しい中、あなたの経歴やAltronに関するビジョンなど詳しく聞かせてもらい、ありがとうございました。
IG:どういたしまして!楽しいおしゃべりの時間でしたよ。
おわりに
Beyron Audioはフィンランドを拠点に、サウンドとサウンドデザインをパフォーマンスと融合させるという独自のビジョンで、新たなシンセサイザーを開発している会社です。彼らの最初の製品であるAltronは、そのビジョンが具体化されています。Altronは単なるパワフルなシンセサイザーではなく、あらゆる音楽制作プロセスを向上させる、柔軟でユニークなクリエイティブツールです。